『白崎映美&とうほぐまづりオールスターズ』は東北大震災の後に東北を元気にする目的で最近結成されたバンドらしい。
そんなことを知る由もない我々只々はワクワクしながら下町ステージの前でリハが始まるのを待っていた。
メンバーが続々スタンバイする。
アコーディオンやサックス、打楽器もいくつかある上にダンサーもいる。
広いはずのステージがとても窮屈そうに見える。
音出しが始まった。
ファンキーで超かっこよくて、
思わずりんたろうとニヤニヤしてしまった。
音出しが始まった。
ファンキーで超かっこよくて、
思わずりんたろうとニヤニヤしてしまった。
陽は山の向こうに落ち、河原は夜の衣を纏い始める。
吹き抜ける風も急に冷たくなる。
会場のあちこちで暖かな光が灯り始める。
昼間とは違う、さらに妖艶になった河原を2人で歩いた。
19:00になり、ステージの裏手に集合すると、
衣装に着替えたメンバーが気合の入った顔で待機していた。
みなさんは僕らを見るなり
「今日はありがとね、よろしくね。たのしんでね。」
と笑顔で声をかけてくれた。
美術班の方からお面と提灯を預かった。
長い竹の先っぽに吊るされた人型の提灯の中に電球が入っている。
入場時にこれを上下に大きく揺らしながら会場を練り歩く任務を任された。
このバンドのボーカルである白崎さんが現れた。
(インターネット上に画像があったのでお借りしました)
ド派手なメイクに真っ赤な衣装。
ステージの衣装を身にまとった彼女はまったく別人だった。
彼女は凛々しい笑顔で微笑むとしゃがれ声で我々にこう言った。
「お面似合ってるじゃん!これも何かの縁だね!楽しんでね!」
メンバーが白崎さんを慕っている理由がわかった。
この人の人柄だ。
ステージ裏から音を鳴らしながら列になって入場する。
私と倫太郎はお面で見えにくい視界の中で、
一生懸命提灯を上下に動かしながら会場を練り歩いた。
ガニ股で歩き首を傾げたりして、おどけながら提灯を揺らした。
お客さんは喜んで私にカメラを向けた。
お面をかぶっているおかげで、別人でいられる感覚になる。
(ステージ横にぶら下がっているのが私が持っていた提灯である)
ギター、ベース、ドラムが刻むリズムの上で、
アコーディオン、サックス、ボンゴ、木琴などが大音量で折重なって、
橋の下の薄暗い空間をゆさゆさと揺さぶる。
会場のお客さんは体全体で音を受け止めて自由に踊る。
我々もお面を首にブラ下げて音楽に身を委ねた。
波の上に漂うような感覚。きもちいい。
そこに白崎映美さんのブルースボイスが、
波に乗って飛び込んでくる。
私たち2人は目の前に広がる異世界に引きづりこまれ、
ただただ、音に従順だった。
ずっと見ていたかったが予定の時間になったので、舞台袖に集合する。
美術班の方々が緊張した面持ちでステージを眺めている。
白くて大きい神様が、うつ伏せに寝かされている。
「じゃぁ目玉入れて」
美術班のリーダーのおじさんがもう一人のおじさんに指示した。
彼はキビキビとした動きで神様の頭を持ち上げて、目玉をはめ込んだ。
「じゃぁ、行こう!よろしくね!」
地面に横たわる巨大な神様を5人で持ち上げ、
盛り上がるステージの上手から姿を現した。
暗闇から悠然と現れた巨大な白い塊にお客さんは「おお!」と声をあげた。
ゆらりゆらりと両腕を大きく広げる神様。
リーダーの「進めー!」という声に反応して、
5人で息を合わせながら神様を前進させる。
盛り上がるお客さんの中に神様が入っていく。
どよめきと歓声と鳴り響く音楽の中で、群衆にもみくちゃにされながら、
必死で神様の左手を動かした。
下をみると倫太郎も、中腰の姿勢で神様の足を操作していた。
「時計回り!!とけいまわりー!!」というリーダーの合図で、
息を合わせて神様を会場中央で回転させる。
時間とともに疲労が増してきて重く感じてきたが、
アドレナリンがビンビン出ていたので踏ん張れた。
曲が終わると、お客さんに見送られながら神様はステージ裏にはけていく。
ステージ裏の土手の斜面に神様を置いて、任務終了。
無我夢中で操縦した数十分は、終わってみると一瞬に感じた。
美術班の人たちからお礼を言われ、
ステージを終えたミュージシャンからもお礼を言われた。
そして白崎さんも我々のところに来て
「ありがとう〜!よく頑張ったね!バッチリだったよ〜!一緒に全国回るか!あはは!」
としゃがれ声で楽しそうに話してくれた。
我々は全員にお礼を言って回った。
ステージを終えたみなさんはキラキラしたいい笑顔で返事を返してくれた。
ビデオカメラを片付けている最中の撮影のおっちゃんにも会いにいったら、
「そういえばガチャピンに会った?」と言われた。(注:ガチャピンさんとは、沖縄の老舗ライブハウス「Groove」のオーナーさんであり、今回の音楽祭では『シャオロントゥザスカイ』のベーシストとして参加している)
私たちが「もうついてるんですか?まだ会えてないです!」と話していると、
タマシイさん(『シャオロントゥザスカイ』のボーカリスト)がヒョコッと現れた。
私はタマシイさんとは初対面だったけど、
これまでの事情をサッと説明したら理解してくれて、
ガチャピンさんに電話してくれた。
数分後にガチャピンさんが歩いてきた。
私たちが自己紹介をすると、ガチャピンさんも覚えてくださっていたようで、「ああ、そうなんだ!」と理解を示してくれた。
これまでの経緯や、「ガチャピンさんの存在がヒッチハイクの成功を後押ししてくれた」という旨を伝えて感謝を述べた。
(左からカメラマンさん、ガチャピンさん、倫太郎、私)
(撮影:タマシイさん)
沖縄から遠く離れた愛知県のフェスで沖縄のガチャピンさんに会えるなんて。
改めていま自分が立っている足元を見下ろして、感謝した。
不思議な巡り合わせがこの世界にはあって、
いまこの瞬間も世界のどこかでそれが起きている。きっと。
我々はみなさんに別れの挨拶をして、
まだ始まったばかりの祭りを名残惜しみつつ、
橋の下音楽祭を後にした。
つづく。