話は遡る。
おばぁちゃんは、1月10日の深夜になくなった。亡くなる瞬間の様子を西宮のおばちゃんと横浜のおばさんが見ていた。そのとき23:55くらいか24:00ギリギリだったらしい。その後、医者が来て死亡確認をした。そのときには日付けは変わり、11日の0時数分だったので、死亡診断書は11日になった。
西宮のおばさんはこの出来事を、壊れたレコードのように何度も何度も言う。
「死亡診断書には11日と書かれるのはしゃーないけど、位牌や骨壷に書いてもらう日付は10日にしてもらおうか?だって私、この目でおかぁちゃんが亡くなるのみたんやで。そのときまだ10日やったのに。」
お上人さんに、位牌の日付を「10日」と書いてもらおうかどうか、ずっと相談された。
頭の中がそれでいっぱいなのだ。
13日にモッくんは東京からやって来てすぐ、この相談を1時間近くされていた。
なぜ彼女がこんなにもこだわるのか全然わからなかった。正確に物事を処理しないと気が済まないか、おばぁちゃんへの愛なのか。
結局、通夜に来たお上人さんに日付を「10日」にしてもらうようにお願いして、この話は終わった。
1月14日
8:40
西宮のおばさんの大きな声で起きた。
お上人さんから着信が入っていたらしい。
「もしもし〜!お上人さんですか?朝早くから失礼します〜。あの、日付の件なんですけどね、10日ではなく、やっぱり11日にしてもらいたいんですわ〜。」
え?やっぱり11日にするの?
「もしもし〜?もしもし〜?あれ、聞こえてますか〜?お上人さん?もしもし〜?もしもし〜?」
この後、30回くらい「もしもし〜?」が続く。
お上人さんは75歳くらいでとても耳が遠いので、またそれが原因なのかなと思っていたが、そうではなく、どうやらお上人さんの携帯電話の調子が悪くてこちらの声が聞こえないらしい。
おばさんは寝起きの私の方向にくるりと振り向き、ハキハキとした口調で、
「宗孝ちゃん、悪いけど、行ってくれる?浄願寺。」
「ハイ ワカリマシタ」
浄願寺には私の父も祖父も、納骨されている。先祖代々お世話になってる寺で、お上人さんは父と同級生らしい。
父が死んで8年間、一度も墓参りに行ったことがなかったので、場所も知らなかった。
いい機会だから、久しぶりに父に会いにいってみようと思い、車を走らせた。
今津駅駅のすぐ近くに日蓮宗の寺「浄願寺」はあった。
インターフォンで事情を話すとスウェット姿の女性が出て来た。お上人さんがいらっしゃるか聴くと、もう外出してしまったというので、日付の件を伝えた。
納骨堂の場所を聞くと、すぐ隣の建物だったので行ってみた。
とても古めかしい、例えるなら蔵のような建物。重い扉を開け、電気をつけると薄暗い室内の正面に「日蓮聖人」らしき木像がライトアップされる。
うわっ、
結構、不気味だ。
図書館の本棚みたいに左右に均一に棚が置かれていて、中は小さく区切られている。その中に骨壷が収められている。
とても父の骨を見つけられそうな数ではないなと思い、木像の前で線香を一本あげて立ち去った。
またゆっくり来よう。
葬儀場に戻ると、さっそくお上人さんから連絡があったらしく、日付は「11日」にしてくれるらしい。
少しホッとした表情で西宮のおばさんがいう。
「私、重大な過ちを犯すとこやったわ〜ほんまに。死亡した日を10日してたら、せっかくおかぁちゃん10日まるまる1日生きたのに、それがわからへんやんなぁ。11日を死亡にした方が絶対ええやんなぁ〜。」
「だから始めから11日しとけばよかったじゃん」と思ったけど、ふと考えた。
私が昔コンビニで働いていたとき、店内で手作りおにぎりを作っていた。このおにぎりの賞味期限は製造時間から6時間。
例えば10時にラベルを出したら、賞味期限は16時までなので16時まで店頭に置ける。
ラベルマシーンは9:00にラベルを出そうとも9:59にラベルを出そうとも9:00のラベルが出る。
9:55におにぎりを作り終わりラベルを出そうとするが、このとき10:00まで待つのだ。
そうすれば賞味期限が1時間伸び、店頭に置ける時間も1時間伸びるのだ。
西宮のおばちゃんは、
「少しでも長く」
という考えだったのかな。
そう思って、
ゆっくりと、
自分を納得させた。
つづく
おばぁちゃんは、1月10日の深夜になくなった。亡くなる瞬間の様子を西宮のおばちゃんと横浜のおばさんが見ていた。そのとき23:55くらいか24:00ギリギリだったらしい。その後、医者が来て死亡確認をした。そのときには日付けは変わり、11日の0時数分だったので、死亡診断書は11日になった。
西宮のおばさんはこの出来事を、壊れたレコードのように何度も何度も言う。
「死亡診断書には11日と書かれるのはしゃーないけど、位牌や骨壷に書いてもらう日付は10日にしてもらおうか?だって私、この目でおかぁちゃんが亡くなるのみたんやで。そのときまだ10日やったのに。」
お上人さんに、位牌の日付を「10日」と書いてもらおうかどうか、ずっと相談された。
頭の中がそれでいっぱいなのだ。
13日にモッくんは東京からやって来てすぐ、この相談を1時間近くされていた。
なぜ彼女がこんなにもこだわるのか全然わからなかった。正確に物事を処理しないと気が済まないか、おばぁちゃんへの愛なのか。
結局、通夜に来たお上人さんに日付を「10日」にしてもらうようにお願いして、この話は終わった。
1月14日
8:40
西宮のおばさんの大きな声で起きた。
お上人さんから着信が入っていたらしい。
「もしもし〜!お上人さんですか?朝早くから失礼します〜。あの、日付の件なんですけどね、10日ではなく、やっぱり11日にしてもらいたいんですわ〜。」
え?やっぱり11日にするの?
「もしもし〜?もしもし〜?あれ、聞こえてますか〜?お上人さん?もしもし〜?もしもし〜?」
この後、30回くらい「もしもし〜?」が続く。
お上人さんは75歳くらいでとても耳が遠いので、またそれが原因なのかなと思っていたが、そうではなく、どうやらお上人さんの携帯電話の調子が悪くてこちらの声が聞こえないらしい。
おばさんは寝起きの私の方向にくるりと振り向き、ハキハキとした口調で、
「宗孝ちゃん、悪いけど、行ってくれる?浄願寺。」
「ハイ ワカリマシタ」
浄願寺には私の父も祖父も、納骨されている。先祖代々お世話になってる寺で、お上人さんは父と同級生らしい。
父が死んで8年間、一度も墓参りに行ったことがなかったので、場所も知らなかった。
いい機会だから、久しぶりに父に会いにいってみようと思い、車を走らせた。
今津駅駅のすぐ近くに日蓮宗の寺「浄願寺」はあった。
インターフォンで事情を話すとスウェット姿の女性が出て来た。お上人さんがいらっしゃるか聴くと、もう外出してしまったというので、日付の件を伝えた。
納骨堂の場所を聞くと、すぐ隣の建物だったので行ってみた。
とても古めかしい、例えるなら蔵のような建物。重い扉を開け、電気をつけると薄暗い室内の正面に「日蓮聖人」らしき木像がライトアップされる。
うわっ、
結構、不気味だ。
図書館の本棚みたいに左右に均一に棚が置かれていて、中は小さく区切られている。その中に骨壷が収められている。
とても父の骨を見つけられそうな数ではないなと思い、木像の前で線香を一本あげて立ち去った。
またゆっくり来よう。
葬儀場に戻ると、さっそくお上人さんから連絡があったらしく、日付は「11日」にしてくれるらしい。
少しホッとした表情で西宮のおばさんがいう。
「私、重大な過ちを犯すとこやったわ〜ほんまに。死亡した日を10日してたら、せっかくおかぁちゃん10日まるまる1日生きたのに、それがわからへんやんなぁ。11日を死亡にした方が絶対ええやんなぁ〜。」
「だから始めから11日しとけばよかったじゃん」と思ったけど、ふと考えた。
私が昔コンビニで働いていたとき、店内で手作りおにぎりを作っていた。このおにぎりの賞味期限は製造時間から6時間。
例えば10時にラベルを出したら、賞味期限は16時までなので16時まで店頭に置ける。
ラベルマシーンは9:00にラベルを出そうとも9:59にラベルを出そうとも9:00のラベルが出る。
9:55におにぎりを作り終わりラベルを出そうとするが、このとき10:00まで待つのだ。
そうすれば賞味期限が1時間伸び、店頭に置ける時間も1時間伸びるのだ。
西宮のおばちゃんは、
「少しでも長く」
という考えだったのかな。
そう思って、
ゆっくりと、
自分を納得させた。
つづく
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