2014年12月26日金曜日

『映画と親父』

私の親父は兵庫県西宮出身の関西人。

親父はしょっちゅう誰かと電話していた。
仕事の話をいつでも携帯電話片手に。
親父は短気ですぐに攻撃的な言葉を吐いて相手を傷つけるのだが、
その反面、ビジネスでの交渉においては凄みを利かせるなどの技で
相手をうまく口説いていたらしい。
親父の話を聞いていれば、
その口の上手さは子供の私にもわかった。
このようにビジネスでは饒舌なのに、
家ではとても口下手な親父。
話題といえばTVのあいつがああだとか、
あの事件はこうだとか、
自分が気になったことを話すくらいで、
「今日学校はたのしかったか」とか
そのような類の話はいっさいしない。
親父と共通の話題といえば
もっぱら映画の話だった。

私は小さい頃から
親父の影響で洋画ばかり観ていた。
物心つく頃から
マッサージチェアで寝ている親父のお腹の上に寝て、
洋画を観まくった記憶が鮮明にある。
寝ながらでも吸っていた
超ヘビースモーカーだった親父の部屋は
TVの明かりだけで、
いつでも煙が充満していて霧がかっていた。
暗い部屋で煙に巻かれ
TVから爆音のハリウッド映画。
いまでもセブンスターの香ばしい煙を嗅ぐと
親父の部屋にタイムスリップした気分になる。

親父は癇癪持ちでよく母親を罵倒し、怒鳴り散らした。
食事中に怒れば料理が飛び交い、
運転中に怒れば暴走運転をして事故りかける。

そんな親父が唯一怒らないときが、
寝ているときと映画を観ているときだった。
あんな荒くれ者も映画を観ているときは
「映画を見ている人」になるのだ。
「映画を見ている人」は映画の魔力によって
映画の前にひれ伏す。
殺伐とした生活に
ひとときの安寧をもたらしてくれる
映画が好きだった。
親父が機嫌悪くて家で暴れていても
映画の世界の中に、自分の居場所があった。
映画は、私の3人目の親といっても過言ではない。

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