2015年5月29日金曜日

『ヒッチハイクの旅』その6

5.21(木)15:30ごろ
大通りにでると再びヒッチハイク。
海沿いの交通量の多いところで、「静岡」と掲げて、止まってくれる車を待つ。日を遮るものが何もなく、暑さに耐えながらひたすら待つ。

すぐ横の水族館に行く家族連れ、サーファー、観光客がこちらを見ている。

30分ほど経過したとき、我々の前に白いファミリーカーが止まった。
後部座席の窓が開くと爽やかな笑顔の若奥さんが「みなとみらいまででしたら乗せられますよ?」と言ってくれた。運転席の旦那さんも爽やかな笑顔でこっちをみている。しかしあいにくみなとみらいは反対方向だったので、丁寧に感謝の気持ちを伝えて別れた。



今日は幸先がいいぞ、と思ったが、
それからどのくらい待っただろうか。
日が傾いてきた。



ヒッチハイクの本質は「待つ事」にある。

行先を掲げて流れる何台もの車を眺めていると、運転手の表情がよく見える。道の向こうから我々の存在を確認して通り過ぎるまでその間約4〜5秒。乗せてくれる人はそのわずか数秒で決断し車を止めてくれる。


我々を目にした運転手の反応は様々。
助手席の彼女が目を見開いて驚き、運転席の彼氏に「ねぇ!見て!ヒッチハイク!」と言っている。親指を立てて笑顔を返してくれる男4人組。見ると同時に爆笑する女2人組。訝しげな表情でこちらを凝視する老夫婦。なんて書いてあるのか見えなくて体を乗り出して見てくれるトラックのおっちゃん。一瞥もせずに通り過ぎていく疲れ切った顔の会社帰りのおっちゃん。

もし自分が運転手ならどうだろうか。
仮に仕事を終え家までの道のりでヒッチハイカーがいたとしたら乗せるだろうか。
このご時世、平和な日本といえど何処の馬の骨ともいえぬ初対面の人を乗せるには、
勇気と覚悟が必要だ。

私が運転手の顔を見て分かったのは、
通り過ぎていく車の4〜5割ほどはこっちを見てなんらかの反応をする。
これは憶測だが、反応した車内では、ヒッチハイカーの話題が出ているはずだ。
しかしその車内では「ヒッチハイカーがいた」という話題で終わるのがほとんどだと思う。その先の「ヒッチハイカーを乗せるか」という話題に発展する車はかなり少数だと思う。そしてさらに勇気を覚悟を持って「ヒッチハイカーを乗せてみよう」という結論に達する車はとても稀だ。ただ、稀ではあるが、ゼロではない。


その一縷の望みをかけた挑戦が2時間ほど経過した。
集中力もだいぶなくなってきて、
向かいのビーチでの野宿も現実的になってきた。
しかし今日中にもう少し進みたい。
迫り来る日没。

とそのとき、
赤い乗用車が私たちの前にスーッと止まった。
助手席の窓が開く。

「ここだと車止まりにくいからもう少し前でやったほうがいいよ。」とアドバイスしてくれたのは膝に子どもを抱えた女性だった。そして「前で止まってるからそこまで歩いてこれる?」といった。

元気よく返事をして車のところまで走った。
このときの喜びといったら計り知れない。

運転席には旦那さんが座っていた。
後部座席の私たちに話しかけてくれる。
「一度通り過ぎたんだけど、嫁が乗せようって言ったからUターンしたんだよ。」
前にも2回ほどヒッチハイクを乗せたことがあるらしい奥さんは、昨日ちょうど友人とヒッチハイクの話をしていたらしい。なんという偶然だろうか。巡り合いとは誠に不思議なものだ。

会話を聞いていてとても雰囲気のいい夫婦。膝に抱えられた女の子は少し緊張しているらしく大人しかった。西日に照らされながら、家族っていいなと思った。

車は茅ヶ崎の海岸線を走る。この辺りの風景は沖縄北部の58号線沿いによく似てる。
「あれが烏帽子岩(えぼしいわ)だよ。」
旦那さんが指差す方向にはサザンオールスターズの歌でおなじみの烏帽子岩が海の上にポツンと顔を覗かせていた。烏帽子岩まで見れるなんてラッキー!

車は山道を登っていく。
神奈川大学のキャンパスを通り過ぎると、いっきに山の風景になった。
静岡・名古屋方面なら東名高速の入り口がいいよと言われ、
秦野中井インター付近のコンビニで降ろしてくれた。
感謝を告げて別れた。

18:00ごろだったと思う。
日暮れまで時間がなかったので、インターの下に行きヒッチハイク再開。
しかし2時間近く手を挙げていたが日が暮れても止まってくれる車はいなかった。

日が暮れて急激に寒くなってきた。
首をジャンパーに引っ込ませ、なるべく体を動かした。
それでも寒かった。ジャンパー以外にろくな防寒着を持ってきてなかったことを心から後悔した。コンビニに戻って、カップラーメンを買って、寒空の下震えながら食べた。なんだかよくわからないけど暖かくてとても美味しかった。あさま山荘事件の警官の気持ちが少しだけ分かった気がした。

二人でYUIの曲を聴いた。今日はこの付近で野宿することにした。
倫太郎が田んぼの上に並んだコンテナを指差して「あそこどうっすかね?」といった。
その場所に行ってみると、コンテナの間に2mほどの隙間があった。
ここなら少しは風も凌げるし、コンテナが目隠しになって人目も気にしなくていい。

倫太郎は早速ソロテントを張り始めた。私は疲れ切っていてその場に倒れこむように寝ていた。しかしあまりの寒さに寝付くことができず、持っていたビニール袋を体に巻いてみたが、効果はなかった。なぜホームレスが段ボールで家を作るのか、ビニールシートで空間を確保するのか身を持って分かった。寒さだ。寒さが怖い。そんなことを考えながら震えていると倫太郎がみかねて「テント入ります?」と言ってくれた。「ごめん、お願いします。」といって、一人用のテントに潜り込んで2人で寝た。

この夜、アツアツのトンコツラーメンを腹一杯食べる夢を見た。


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