2015年5月31日日曜日

『ヒッチハイクの旅』その7

5.22(金)早朝

ラーメン屋の店長と仲良くなって肩組んで酒飲んでるところで目が覚めた。
一人用のテントにテトリスのL字のように眠っていた二人。冷たい外気をシャットアウトしてくれたテントの天井を寝ぼけマナコで見つめる。倫太郎ありがとう。わたしいきてる。

テントを片付け、コンビニに戻って歯磨きと水分補給を済ませる。
コンビニの前に座り朝日を浴びていると、倫太郎がポツリとこぼした。

「あ、俺今日、誕生日だ。」

「マジで?おめでとう。」

21歳の誕生日を野宿で迎える人も稀だろうが、野宿の朝に誕生日の報告を受ける人も稀だろう。祝福の気持ちをどう表現すればいいか分からなかったので、とりあえずYUIの「Happy birthday to you you」を歌ってあげた。

21歳の誕生日がこんなにも濃厚で劇的な日になるとは倫太郎も私も、この時点ではまだ想像もしていなかった。



昨日のインター下のバス停まで行き、「静岡・名古屋方面」を掲げて本日もヒッチハイク。30分ほど経過したところで、大きな黒いリュックを背負った色白細身の青年が目の前から歩いてくる。

先方の私を通り過ぎて後方の倫太郎になにやら話しかけている青年。
近ずいて話を聞くと、どうやら彼もヒッチハイクで旅をしているらしい。長い髪を後ろで結んでいて、姿勢が良く育ちも良さそうな顔立ち。服もシャンとしているし、清潔感もあるのでまだ旅の序盤なのだろうか。

ヒッチハイク仲間を見つけて嬉しい!みたいな表情をこちらに向けながら、
「僕も御殿場の方まで行きたくて。すみません、ここでヒッチハイクしてもいいですか?」と聞いてきた。



このとき私の頭の中にパチッと火花が散るように思考が駆け巡った。



別にヒッチハイクしてもらうのは構わないんだけど、そうするとこのバス停にはヒッチハイカーが3人いることになるよね?車から我々を見る運転手は、3人一組と思う可能性もあるよね?そのせいで車が止まる確率が低くなるのは御免こうむりたい。てかたしかにここはいい場所だけど俺らが最初にここでヒッチハイクしてる時点で、初めに止まった車は俺たちが乗るよ?3人乗れるんなら全然乗っていいけど、2人しか乗せられないと言われたら、すぐに「あ、彼は関係ないです。」ていうよ?こっちはここで1日野宿してんだよ。そうなったら君はこの場所で乗れたはずの車を一台棒に振ることになるんだよ?2人で何としても今日中に静岡もしくは愛知に行きたい。ここで我々とヒッチハイクすることは自分にとっても我々にとっても不利益が生じることだということを、少し考えればわかるんじゃないかな?



27歳の私の身体にはかなり疲労が溜まっていたので、思考もダークサイドになっていた。
さらに続く。



ちょっと待てよ。この状況、どこかで見たことがあるぞ。
既視感。そうだ、ゾンビ映画のワンシーンだ!!
ゾンビの群れから命辛々逃げてきた主人公がヒロインとともに荒廃した街を歩いていると、建物の陰からとつぜん生存者が飛び出してくる。お互いに驚くが人間だということがわかると、初対面の若者はこういう。



「人間!?よかったー生存者がいるなんて。」


そして訝しげな表情の主人公をよそに若者はこう言い放つ。


「俺ディヴィット。なぁ、仲間にいれてくれよ。」


このときの主人公の気持ちが痛いほどわかった。
俗にいう『ちょっとまてお前誰やねん状態』である。


彼の言葉を聞いて、ものの数秒で駆け巡った脳内スパークによって言葉が思いつかず、
どうしたものかと思い、倫太郎の方を見ると、あっさりとこういった。



「別にいいんじゃないすか?」




倫太郎のこういうシンプルなところが大好きだ。
この言葉を聞いた瞬間いままでの思考が吹き飛び
「そうだ、別にいいや」と思った。


彼は、『ヒッチハイクに必要なもの』というNAVERまとめがあったなら絶対に載っているであろう大きな大きなスケッチブックをリュックから取り出し、「御殿場方面」と書きはじめた。(我々は家にあったペラペラのA4のコピー用紙)


書き終えると、我々の「静岡・名古屋方面」の表記をみて、
「地名は具体的に書いた方が、車も止まりやすいみたいですよ?僕、書きましょうか?」
といった。


その言葉を聞いた倫太郎は迷うことなく、
「俺たちずっとこれでやって来たんで、大丈夫っす。」
といった。


倫ちゃんのこういうとこ、やっぱ好きだわ。



「そうっすか」といい、我々の後方5mのところでヒッチハイクを始めた青年。
それから15分ほど経って後ろを振り向くと彼の姿はなかった。
どこか別の場所へいったらしい。
まぁいっか。



しかし全然止まらない。
途方にくれていると、昨日秦野中井まで送ってくれたS夫婦の奥さんからメールが来た。高速に乗れたかどうか心配してメールしてくれた。まだ乗れていない旨を伝えると、旦那さんが出勤前にサービスエリアまで乗せてあげるからそこで待っていて、と返ってきた。なんということでしょう。こんなにありがたいことってあるんでしょうか。嬉しすぎて、すぐにヒッチハイクは止めて、座って待った。


昨日お世話になった赤い車がバス停にきた。
旦那さんに感謝を述べて、車に乗り込んだ。
東名に乗り、ついに静岡へ。



(その7でもうちょっと進む予定だったけど、
ヒッチハイカーのくだりに熱が入りすぎてあんまり進まなかった(笑)
今日はここまで!)


続く

0 件のコメント:

コメントを投稿